Thursday, November 14, 2013

LOD チャレンジ2012受賞作品「Where Does My Money Go? 日本語版」解説

LOD チャレンジ2012受賞作品「Where Does My Money Go? 日本語版」解説

「Where Does My Money Go? 日本語版」は、2012年度のLODチャレンジJapanのアプリケーション部門で優秀賞を受賞しました。また、関連するデータセット作品、ツール作品とともにまとめてスポンサー賞も受賞しています。本記事では、当作品の簡単な紹介とともに、Linked Open Dataとしての技術的な側面に焦点をあてて解説します。

Where Does My Money Go?

当作品は、指定した年収の人が納めた市区町村税が様々な目的にどのように使われているのかを教えてくれるウェブサイトです。ウェブサイトでの説明によれば、「あなたの年収のうちいくらが市税や町税で、それらが何の目的に使われているのか、1日当たりの金額で可視化するWEBサービスです。このサービスを立ち上げた目的は、納税者である国民一人ひとりが、支払っている税金の使われ方を具体的に理解し、税金の使われ方を決める当事者として責任ある意見を述べることを手助けすることです。私達は、国民一人ひとりが、公共サービスにおける受益と負担の関係を数字で理解したうえで、私ならこう税金を使って欲しいという具体的で責任のある意見を述べることができるようなることが、日本の財政を健全化させ、日本を新たな成長へと導く近道に違いないと考えています。 現在のヴァージョンでは、県市町村といった、いわゆる地方自治体の財政データを扱えるようになっています。」ということです。
当作品の優秀賞受賞理由は、「自治体が持つ公共データをオープンにすることによる価値を,日常生活に直結した問題として市民に分かりやすい形で示している作品です。公共データをLOD形式に変換することで加工しやすくなり、他の公共データや市民が作成したデータとつながる新しいサービスが今後創出されることを期待して、優秀賞に選考いたしました。」ということです。また、他の作品と併せてのスポンサー賞(日本アイ・ビー・エム株式会社「スマーターシティー」賞)での受賞理由は、「横浜市という大都市を対象としハッカソン・アイデアソンといったコミュニティー活動を通して開発が進められたこと、また実自治体の協力を得ながら作品作りが進められたことを評価いたしました。現在自治体のデータは、自治体ごとに掲載位置やフォーマットが異なり、数値データもPDFで公開されるなどの課題があります。今後は、本取り組みを他自治体に広め、税金以外の様々なデータにも対象を広げるといった活動に期待をいたします。」ということです。

受賞理由をみると、サービスの内容自体への価値が認められ、技術的には将来への期待を込めていることが見受けられます。本記事では、将来、技術的にどういう形が期待されているのかを、具体的な市区町村用の「Where Does My Money Go?」ウェブサイト構築の手順を追いながら明らかにしていきたいと思います。

公開データ

 当アプリケーションを構築するにあたって欠かせない情報は、当該市区町村における予算(または決算)の編成内容です。特に一般会計の予算(または決算)が重要になります。国や地方公共団体の会計は一般会計と特別会計に分けられるのが普通です。特別会計というのは、水道事業など、特定の歳入をもって特定の事業を行うような場合を別途扱って、それ以外をまとめた会計である一般会計とは独立させ、収支損益や資金管理などが不明にならないようにするものです。ですので、市区町村税の使い道を考える際には、特別会計は除いて一般会計だけを対象にするほうが適切なことが多いといえます。特別会計の損失補てんは、一般会計からは繰り出しとして見えます。
 一般予算は、財政法で定められている公開主義原則により「公開」されているはずです。ただし、ここでいう「公開」は、いわゆる情報公開条例などにみられる、公開請求する権利がある、程度にすぎない可能性もあります。(別途条例などがあれば別ですが。)つまり、インターネットで簡単に入手でき、しかも得られた情報を自由に使えるかどうか、は別の話となります。
 神奈川県大磯町のウェブサイト(http://www.town.oiso.kanagawa.jp/、2013年11月現在)の町制情報のページの1つに予算・決算・財政状況が示されており、例えば、平成25年度(や過去の年度)の予算あらましについて公開(図1参照)されており、「歳入歳出予算の概要」というPDFファイルに歳入予算や歳出予算内容の概要が提示されています。したがって、大磯町では、面倒な公開請求の必要なく、ウェブで簡単に予算概要の情報を得られます。より詳細については、大磯町は良心的にさまざまな会議の議事録などウェブ上で公開しているので、どこかに落ちている可能性はありますが、基本的には、公開請求などの手続きを経て入手する必要があります。



1 一般会計予算公開例。大磯町ウェブサイト、町制情報(予算・決算・財政状況)より抜粋
(C) 2013 Oiso town All Rights Reserved
 
情報が簡単に入手できたとしても、それをアプリケーション構築に使うためには、著作権が問題となります。実際、大磯町のウェブサイトでは、「Copyright 2013 Oiso town All Rights Reserved」の記載があり、「著作権・リンクについて」とリンクされたページには、著作権につい て、「大磯町ホームページに掲載している文書、画像等に関する著作権は特段の断りがない限り大磯町に帰属します。無断で複製、転用等はお断りいたしま す。」と記されています。予算内容概要の表自体に著作権があるかどうかという議論もありますが、安全側に倒すのであれば、法律の専門家と相談したり、大磯 町に問い合わせて使用許諾をもらったりする必要があるでしょう。
情報を入手して自由に使えるようにするためには、ウェブに公開することに加え、害のない範囲で自由に2次利用できるように明示的に許諾してあることが必要であることがお分かりいただけるでしょうか。そのような目的で利用できる標準的なオープンライセンスには Open Data CommonsPDDLODC-byCreative CommonsCC0CC-byなどがあります。この段階は、オープンデータの5つ星評価(http://5stardata.info/ja/)の1段目、1つ星として規定されています。

データを取り出す

 それでは、データを機械処理できるようにとりだしましょう。公開されている「歳入歳出予算の概要」というPDFファイル中には、一般会計予算に関するさまざまな情報がありますが、中でも、市区町村税の歳入上の位置づけと、歳出の目的に着目し、それぞれの内容の区分(款別、かんべつと呼ばれます)が分かる表(図2)を取り上げます。歳入をみると市区町村税である町税(1番目)が半分以上を占めていますが、その他にもいろいろあることが分かります。中でも国 庫支出金など、使途が特定される、いわゆるひも付き収入があるため、それらの分は市区町村税が使われない分として歳出から除くほうが適切であることが多い でしょう。また、歳出の公債費には元金の返済と利子分の返済、その他の経費が含まれますが、歳入には新たな借り入れがあるので歳出から元金の返済分は除い て考えたり、利子の一部に充当する目的の地方交付税がある場合は差し引いたりするほうが適当かもしれません。ただし、ここでは簡単のため、これらはすべて 無視することとします。


2 予算内訳情報の例。大磯町「歳入歳出予算の概要」より抜粋
(C) 2013 Oiso town All Rights Reserved
歳出の内訳が分かれば、町税全体または、ある人が納めた町税、さらにはその1日相当分 がどれくらいの割合で使用されることに相当するかがわかります。款別ごとに予算額がいくらであるかを見て、予算全体に占める割合を算出し、その割合を対象 の町税にかけてあげるだけです。例えば、予算のうち教育費が9.2%であれば、1日あたりの市区町村税(年間の税金納付額を365日で割ったもの)が1000円の人は、1日につき92円が教育費に当てられていると考えることができます。
予算全体額、款別歳出予算額は、PDFにある表のままでは簡単には機械的に取り出せません。そこで、Microsoft ExcelGoogle Docsでこれらの表を起こして(図3)みることにしましょう。この際、同系の歳出はまとめてひとくくりにできるようにカテゴリ分けしてみます。大分類(Category)と中分類(Subcategory)を与え、中分類ごとの予算が取り出せるような表ができました。こうなっていれば、そこからデータをコピーして取り出すのも簡単ですし、さらに、カンマ区切りのテキスト形式(CSVと呼ばれます)などになっていれば、Excelを所有していなくともプログラムを作ってデータを取り出すのが簡単になります。一般的な表計算プログラムは図4のようにそのような形式でデータを保存する機能を備えています。

3 Google Docsで歳出データを起こした例
 
4 CVS形式でデータを公開するGoogle Docs設定画面の例
 
 情報を簡単に扱えるようにするためには、ウェブへオープンライセンスによる公開に加え、ExcelGoogle Docsなどの表形式になっていることが望まれます。この段階は、オープンデータの5つ星評価(http://5stardata.info/ja/)の2段目、2つ星として規定されています。さらに、カンマ区切り(CSV)やタブ区切り(TSV)のテキスト形式であれば、特定の商用製品に頼らずともデータを取り出すプログラムを作成することが簡単になります。この段階は、オープンデータの5つ星評価(http://5stardata.info/ja/)の3段目、3つ星として規定されています。

(後半へ続く)